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購入前に重視される情報と購入後の後悔:修繕積立金にご用心
Q:マンション購入後に、みなさんはどのような事に後悔しているのでしょうか。
A:後悔の一つは、修繕積立金です。
1.はじめに
マンションの修繕積立金の積立方式は、完成年次2000年以降において「段階増額積立方式」が過半数を占めるようになりました(国土交通省住宅局「令和5年度マンション総合調査結果報告書」)。一方、現在の積立額が計画に比べて不足しているマンションは、全体の3分1を超えている状況にあります。
段階増額積立方式のもとに、修繕積立金の増額に対する十分な理解がないままに、マンションを購入される結果、購入後の当該積立額の不足が生じているのではないでしょうか。
本稿では、マンションを対象として、購入者の管理費・修繕積立金の増額に対する現状認識について紹介します。
2.マンション購入時に考慮した情報
まずは、マンション購入時において考慮した項目(重複回答)をみると、駅距離(71.6%)を筆頭に、間取り(61.4%)、買い物環境(53.5%)が続きます(図-1参照)。修繕積立金に関連する「共用部分の維持管理状況」は12%程度にとどまっています。維持管理の状況は、実際に住んでみないとなかなか捉えづらい情報かもしれません。

図-1 マンション購入時に考慮した項目(回答割合ランキング)
マンション購入の意思決定プロセスを、①情報収集時点、②内見時点、③契約締結時点の3つに区分した上で、各時点において購入者は何を重視しているのか見てみましょう(筆者独自調査:2023年11月実施,サンプルサイズ1,620件)。
立地要因では「駅距離」、建物では「広さ・間取り」がそれぞれ情報収集時点から契約締結時点までの各時点において、4割を超える購入者が重視しています。当該結果は、前記調査と整合する結果です。一方、「管理費・修繕積立金の額」は、情報収集時点(12.8%)から契約締結時点(19.0%)に向けて徐々に重視される傾向にあります。しかしながら、いずれも2割を下回っており、重視される項目としては低位です。
表-1 高層マンションの情報収集時点別にみた価格形成要因の重視項目の推移(「重視した」回答割合)

3.マンション購入後の後悔を惹起させる要因
マンションの購入後において、「もっと重視すべきであった」と後悔しているか否かについて、前述のとおり計23項目を対象として回答を求めています(図-2参照)。具体的には、それぞれ「後悔している」「後悔していない」の2段階尺度で把握しています。 「管理費・修繕積立金の額」に対して後悔している回答者は9.6%を占めています。当該割合は、「広さ・間取り」(12.5%)に次いで多く、後悔を惹起させる要因として購入者に認識されていることが見て取れます。そもそも「管理費・修繕積立金の額」が、購入時に重視されていれば、後悔を回避できたのかもしれません(表-1参照)。

図-2 マンション購入後の「後悔している」価格形成要因の回答割合
4.マンション購入者の管理費・修繕積立金に対する後悔認識
年齢20歳代の購入者の4人に一人(25.7%)は、「管理費・修繕積立金の額」に対して後悔しています(図-3参照)。
当該年齢の購入者は、修繕積立金の「増額に対して理解していなかった」との回答者が57.1%と過半数を占めています(図-4参照)。そのため、当該「増額に対して納得いかない」と感じている回答者も54.3%と半数を超過している状況にあります。
結局、マンションの購入時に「管理費・修繕積立金の額」を注視しなかったことが(図-1参照)、その後の後悔を惹起させているものと考えられます。

図-3 管理費・修繕積立金の額に対して「後悔している」回答割合の年齢別推移

図-4 購入者の年齢別にみた管理費・修繕積立金に対する認識
5.おわりに
段階増額積立方式においては、購入者の修繕積立金の増額に対する理解が欠かせません。しかし、マンション購入者の20歳代では、修繕積立金の額に対して後悔している方が4人に一人みられます(図-3参照)。また、当該金額の増額に対する理解が十分でない状況です(図-4参照)。こうした現状に鑑みれば、今後、修繕積立額の計画に対する金額の不足を回避するためにも、宅地建物取引業法第35条の重要事項説明時には、修繕積立金の改定時期と当該金額を具体的に提示することが求められます。特に20歳代の購入者の理解を促すことが必要です。また、購入者自身も修繕積立金の今後の見通しについて興味関心を高めることが、購入後に後悔しないための予防策となります。修繕積立金にはご用心ください。
よろしければ、下記の研究論文を合わせて参照いただけますと幸いです。
【関連する研究論文の紹介】
小松広明(2022)「マンションの管理費・修繕積立金に対する購入者意識と価格の関係性」
公益社団法人日本不動産学会『日本不動産学会誌』Vol.35,No.4,pp.97-104,2022年3月
https://doi.org/10.5736/jares.35.4_97
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
明海大学不動産学部教授 小松 広明