
マイホームを買う前に読んで安心Q&A㊱
環境性能が資産価値を左右する① ~欧州の動向~
今年の夏は酷暑で、9月に入っても猛暑が続いている。最高気温が35度以上となる猛暑日が各地で歴代最多記録を更新したというニュースを聞くと、誰もが気候変動の影響を感じざるを得ない。当然、住宅性能も気候変動に対応したものにならなければならないだろう。
こうした状況を踏まえ、今回と次回の連載では住宅の環境性能について述べることにしたい。今回は欧州の動向として、住宅の環境性能を規定する基準の変化と住宅取引における規制強化の実態を概観し、次回は日本の動向を見ていく予定である。住宅選びの基準が変わり、住宅の環境性能を無視できない時代になっていることを知って頂けたらと思う。
現代のような長寿命時代においては、生涯同じ住宅に住み続けるよりも、住み替えを経験する人が多いのではないだろうか。その場合、これから購入しようとする住宅をのちのち売却する、あるいは貸し出す可能性がある。となると、住宅を購入する際には、今後も資産価値が下がらないような物件を選ぶことが必要となる。
Q.これから住宅選びをする際、何に気を付けたらよいでしょうか?
A.住宅の環境性能です。
これまで住宅の資産価値は、購入時に考慮される主な基準である立地、間取り、広さ、デザイン――加えて日本では耐震性能――等々によって影響されていた。今後これらの基準に加えて住宅の資産価値に大きな影響を与えると考えられているのが、住宅の環境性能である。現在、住宅の建築基準として高い断熱性能と省エネ性能が求められるようになっている。これからは住宅が高い環境性能を有していることが当たり前の時代となり、環境性能の低い住宅は相対的に価値が下がっていくはずだ。よって住宅を購入する際にはその環境性能、とりわけ断熱性能と省エネ性能に気を付けることが重要となる。
海外においてはすでに、環境性能が住宅の資産価値に顕著な影響を及ぼしている。とりわけ欧州では建築分野における省エネ対策に対する関心が高く、積極的な取り組みが続けられている。EUでは2002年に、「建築物のエネルギー性能に関わる指令(EPBD :Energy Performance of Buildings Directive)」が、建築物の省エネ規制として最初に導入された。これは温室効果ガス削減目標を達成することと、EU内の建築エネルギー性能を向上させることを目的として、住宅の環境性能基準や適合義務を設けるように加盟各国に求める指令である。2010年の改正ではZEB(Net Zero Energy Building)※1の概念が導入され、2024年の改正ではさらに厳しいエネルギー基準が制定された。
※1 ZEB(ゼブ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)とは、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物。
EPBD の中で注目すべき項目の一つに、エネルギー性能表示制度(EPC:Energy Performance Certificate)がある。この制度は、売買・賃貸される新築建物や既存建物のエネルギー性能をAからGまでの7 ランクで評価し(Aが最も高いエネルギー性能、Gが最も低い性能)、これを示す証明書を発行し表示することを義務付けるものである。
この評価制度は、加盟国ごとにバリエーションを持たせつつ適用されている。例えばフランスでは、このEPC制度(フランス語表記はDPE:Diagnostic de performance énergétique)の導入が2006年から本格化した。以降、数年ごとに性能基準が引き上げられており、2034年にはすべての住宅を高い断熱性能にすることが目指されている。本年(2025年)1月には、ついに最低基準のGランク物件の賃貸が禁止され、Eランク以下の売買物件にはエネルギー監査が義務化された。
現在EPBDの加盟国ごとに異なっている評価基準は、2024年の制度改正によって今後統一されることが決められた。さらに、エネルギー性能の最も低い非住宅は、2030年までに少なくともFランクに、2033年までにEランクにすることが義務付けられた。これらの動向は、建物の環境性能の向上の取組みが欧州全体で加速していることを示している。
このように、欧州における住宅の取引においては、環境性能が住宅の資産価値を大きく左右しており、環境性能の低い住宅はもはや取引市場にすら上がらない状況にある。したがって所有者は既存住宅を取引できるよう、その環境性能を高める改修を計画し、費用を捻出しなければならない。ということは、今後住宅を購入する際には、環境性能が高く資産価値の下がらない、市場で取引可能な住宅を検討することが重要になるのだ。
住宅の環境性能を向上させる取組みは、欧州のみならず近年の日本でも加速している。次回は、日本における住宅の環境性能を規定する基準の変化と、省エネ住宅がもたらすメリットについて見ていくことにしたい。
参考.フランスにおけるエネルギー性能表示
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
明海大学不動産学部准教授 西村 愛