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第1回

スムストックでよかった!

新築から約30年で取り壊されてしまうと言われる日本の住宅。これまで当たり前のこととして受け止められてきた日本の住宅寿命への考え方が、人々の価値観とともに変化しています。個人の豊かな人生と持続可能な社会構築の両立を目指す住宅業界の取り組みに注目が集まっています。

ここがポイント

  • 日本の住宅が新築されてから解体されるまでの“寿命”は米英の半分以下の約30年。
  • 「いい家を建てて、適切に手入れをしながら長く住む」ことへ価値観の転換が進んでいる。
  • 「スムストック」は優良な住宅を住み継ぐために大手ハウスメーカー10社が協力して取り組んでいる制度。建てる人にも購入する人にもメリットがある。

建てては壊し、壊しては建て……

日本の新築住宅が取り壊されるまでの平均期間は約30年。アメリカの66年、イギリスの80年の半分以下という短さです。日本では親の代で新築、その子供の代でまた新築と、世代ごとに家を建てているのです。しかし、もし親の家を住み継ぐことができたら、あるいは質の高い中古住宅を適正な価格で入手できたら、新築のための何千万円を教育や学習、旅行や趣味などに使うことができるようになります。住宅の寿命が倍になれば解体工事も半減し、ゴミの量も大きく減らすことにも繋がっていくことでしょう。

国土交通省資料https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001323215.pdf

いい家を住み継ぐ時代に

 2006年に「住生活基本法」が定められました。「安全・安心で良質な住宅ストックの充足」を目標に、住宅政策の基本が「量から質へ」と大きく変えていくきっかけとなりました。

 09年には「長期優良住宅認定制度」もスタート。住宅の長寿命化のために必要な条件を満たした住宅は税制や融資面で優遇されることになりました。これらの法整備を受けて住宅供給に大きな役割を果たす住宅メーカーも始動。「スムストック」がスタートしました。

 「スムストック」とは、神奈川県住宅協議会を構成する大手住宅メーカー8社に2社を加えた10社が、良質な中古住宅の流通を後押ししようと築いた仕組みです。
 これまでほとんどの住宅は「建築後20年で価値ゼロ」とされてきました。実際、誰がどのように建てたのか、竣工後のメンテナンスやリフォームがいつどのように行われたのかといった点に不明点が多く、中古住宅の価値を見極めることは困難なものでした。購入希望者は「どこかに不具合が隠れていないか」「大きな地震が来ても大丈夫か」「あと何年住めるのか」といった疑問や不安を拭うことができず、結局「壊して新築」という選択が行われてきました。

 この現状を変えるためスムストックは「3つの原則」と「3つの手法」の、合わせて6つの条件を定め、それを満たした住まいをスムストックとして認定することにしました。性能や価値が誰の目にも明らかな信頼性の高い中古住宅の流通を促すことにしたのです。

価値を「見える化」したスムストック

 3原則と3手法をご紹介しましょう。

 原則1は「住宅履歴データベースの保有」です。竣工以来、どんなメンテナンスや修理・リフォームを行ったのか、工事歴をデータとして蓄積していきます。「どのような手入れがされてきたのか」――この点が不明確では安心して中古住宅を購入することができません。

 原則2は「50年以上のメンテナンスプログラム」です。長期にわたる定期点検が、定められたルールのもとに継続的に実施されているか?安心して住宅に住み続けていくために欠かせないポイントです。

 そして原則3は「新耐震基準レベルの耐震性の保持」です。中古住宅の購入にあたって耐震性は大いに気になるところ。「なんとなく大丈夫そう」というあいまいなものではなく、建築時に確保されている性能を具体的に示すことを求めています。

用いられる3つの手法

 「3つの手法」の第1は「スムストック住宅販売士が査定から販売までを担う」という点にあります。スムストック住宅販売士は不動産と建築の両方の専門知識を持つプロとして認定された有資格者であり、査定や性能評価は公開された基準に従って厳正に進められます。

 2つ目の手法は「スケルトン(建物の骨格)とインフィル(内装・設備)に分けて査定する」点。建物の骨格と内装ではそもそも耐用年数が異なります。一緒にして評価することには無理があるのですが、「あと10年くらいは住めそう」といった勘に頼った「評価」が行われてしまっている現状があります。そして手法3は「建物と土地それぞれの価格を表示する」というもの。現在は、土地と建物があっても「古屋付き」と但し書きがつけられた上で、土地と建物の総額(実質的には土地の価格)が表示されるに過ぎません。これでは建物にどれほどの価値が残っているのかが分からないのです。

 以上のような6条件をすべて満たすスムストック査定により、「見える化」された中古住宅情報を消費者に提供していきます。実際、これまでならあっさりとゼロ円とされていた建物が400~600万円と査定された例もあるなど、当制度は消費者にとって有益な成果を残しています。

スムストックであることが販売にも購入にも有利に

 「家を売るつもりはないから、査定価格のことには関心がない」という人がいるかもしれません。しかし、20年後30年後のことは誰にも分かりません。建築した住宅がきちんと評価されたものであれば、資産としていつでも有効に活用できます。

 実際こんな例があったと、スムストック住宅販売士がエピソードを語ってくれました。「転勤が急に決まったお客さまでした。新築されて8年ほどでしたが、転勤先での勤務も長くなりそうなので売却を決断されました。スムストック独自の詳細な査定の結果、一般の不動産業者より600万円ほど高い査定額になったのです。しかも、査定内容が信頼でき、50年のメンテナンスプログラムの残存期間が引き継げるのが魅力だと、すぐに購入希望者が現れました」。

 売却側と購入側の双方に大きなメリットがあるスムストック。「いい家を長く」というこれからの家づくりを支えています。