マイホームを買う前に読んで安心Q&A⑯
中古住宅購入後、過去に自殺者がいたことが判明した場合
Q.宅建業者の媒介で中古住宅を購入して引越し後,隣人から前所有者の妻が半 年ほど前に居室内で縊首自殺したことを知らされました。そのようなことがあった物件であることをあらかじめ知らされていたなら購入しなかったのですが,宅建業者・売主から,その説明はありませんでした。どうしたらよいのでしょう。
A.売買の目的物とされた不動産が,その物が通常保有する性質を欠いていることを瑕疵といいます。土地が有害物質で土壌汚染されているといった,目的物が通常有すべき品質・設備を有しない等の物理的瑕疵がある場合だけでなく,居住用建物の場合は,目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等により,「住み心地のよさ」を欠くといった心理的瑕疵がある場合も含まれます。ただし,単に買主がそのような建物に居住することを好まないというだけでは足りず,さらに進んで,それが,通常一般人であれば「住み心地のよさ」を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度にいたったものであることが必要です(大阪高判昭和37年6月21日)。
他殺・自殺など人の死に関する事件・事故があった場合,「嫌悪すべき歴史的背景」があるとして心理的瑕疵を認めた裁判例が多数ありますが,心理的瑕疵の有無は,事件・事故の重大性,経過年数,買主・借主の使用目的,近隣住民に事件等の記憶が残っているかどうか等を総合的に考慮して判断されるので,常に心理的瑕疵が認められるわけではありません。裁判例では,都会のマンションで約6年前に縊首自殺があった場合(横浜地判平成元年9月7日),山間農村地の一戸建て住宅で約7年前に服毒自殺があった場合(東京地判平成7年5月31日)について,いずれも心理的瑕疵が認められています。
1 心理的瑕疵がある場合の売主の責任
①説明義務
契約締結の交渉過程において,信義則上,売主は,買主が購入するか否かについて判断するのに重要な影響を及ぼすと考えられる事項について,知っていることを説明する義務があります。この義務に違反した場合は不法行為となり,損害を賠償しなければなりません(最判平成23年4月22日)。
②売主の担保責任(契約不適合責任)
引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して「契約の内容に適合しないものであるとき」は,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができ(新民法562条1項),代金減額請求(新民法563条),損害賠償の請求及び契約の解除(新民法564条)をすることができます。ただし,売主が契約内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において,買主は,その不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければ,買主は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができません(新民法566条)。これを,売主の契約不適合責任といいます。
自殺による心理的瑕疵の場合は,修補による履行の追完は不可能ですから,損害賠償請求または契約解除をすることになりますが,先にあげた自殺の裁判例では,いずれも契約解除が認められています。
2 心理的瑕疵がある場合の宅建業者の責任
宅建業者には重要事項説明義務が課されている(宅建35条)ので,自ら売主である場合,心理的瑕疵の説明義務があります。これに違反した宅建業者は,宅建業法上,指示処分・業務停止処分の対象となるなど(宅建業法65条1~4項,66条1項9号,80条),一定の制裁が課されるだけでなく,民法上,売主として損害賠償責任を負います。
宅建業者が媒介する場合は,買主から特に調査を依頼されたなど特段の事情がない限り,人の死に関する事実の有無を自発的に調査して説明する義務はありませんが,売主から告知された場合や,告知されなくても自ら承知している場合には,買主に説明する義務があります。この説明義務に違反した場合は,宅建業法上,処分の対象となるだけでなく,民法上,買主に対して損害賠償責任が発生します(東京高判昭和32年11月29日,名古屋地判昭和59年2月10日)。
なお,国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月)では,売主に対して,人の死に関する事実の存在について物件状況報告書(告知書)への記載を求め,それに従って説明していれば,調査・説明義務違反にならないとされ,後日,物件状況報告書(告知書)に記載されなかった人の死に関する事実の存在が判明しても,宅建業者に重大な過失がない限り,調査・説明義務違反にならないとされています。
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
(明海大学不動産学部 有嶋咲)