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マイホームを買う前に読んで安心Q&A⑳

売買契約後・決済前に事故物件であることを知った媒介宅建業者の説明義務

Q.Xは,宅建業者Yの媒介で,一戸建て住宅を建築する目的で,Aより代金2750万円で土地を買い受ける旨の売買契約を締結して手付金275万円を支払い,2か月後の決済日に残代金2745万円を支払って決済が完了した後,購入した土地上にあった建物で約20年前に自殺があったことを知り,説明義務違反を理由に,Yに対して,本件土地の取得に要した支出額と,本件土地の現在価額との差額(1150万329円)を損害賠償請求しましたが,Yは,事故物件であることを知ったのは売買契約後・決済前であるから,説明義務違反はないと主張しています。Xの損害賠償請求は認められるでしょうか。

A.「本件土地上で過去に自殺があったとの事実は,本件売買契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実であるとともに,締結してしまった売買契約につき,その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実でもあるといえる」から,「宅地建物取引業者として本件売買を仲介したYとしては,本件売買契約締結後であっても,このような重要な事実を認識するに至った以上,代金決済や引渡手続が完了してしまう前に,これを売買当事者である原告Xに説明すべき義務があったといえる(宅地建物取引業法47条1項1号ニ)」としながらも,この説明義務違反と相当因果関係がある損害は,本件土地の取得に要した支出額と,本件土地の現在価額との差額ではなく,「説明義務が履行されていれば代金決済や引渡手続を了しない状態で,本件売買契約の効力に関し,売主側と交渉等をすることが可能であったのに,説明義務が履行されなかったが故にこれをすることができず,その結果,代金決済や引渡手続を了してしまった状態で売主側との交渉等をせざるを得なかったことによる損害であり,具体的には,このような状態に置かれざるを得なかったことに対する慰謝料であると考えられる。」として,YがXに賠償すべき慰謝料の額は,150万円と認めるのが相当であるとした裁判例があります(松山地判平25.11.7ウエストロー)。

1 20年以上前の自殺で,建物が現存していなくても,説明義務があるか

 上記裁判例の判決は,次のように判示しています。

 20年以上前の自殺で,自殺のあった建物はすでに取り壊されており,以後,駐車場として売買が繰り返され,本件土地の所有者はその変遷しているとしても,自殺の事実は,今なお、近隣住民の記憶するところとなっており,本件土地を買い受けようとする者に対し,少なからぬ忌避感ないしは抵抗感を抱かせる事実であるといえる。しかも,Xの本件土地の取得目的は,駐車場として利用するとか,共同住宅等を建築して収益を得ようというのではなく,一戸建てマイホームを建築して,本件土地を家族の永続的な生活の場にしようというものであるから,このような者にとって,過去に本件土地上に建てられていた建物で自殺があったとの事実は,建物が取り壊され,所有者が変遷していることを考慮しても,そのような土地を生活の場として取得しようというのは、稀な事態であると考えられる。したがって,本件土地を買い受けるか否かの判断に重要な影響を及ぼす事柄であるといえるから,「本件土地の仲介をした宅地建物取引業者であるYは,本件売買契約の締結に際し,本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していたのであれば,これを売買当事者であるXに説明をすべき義務を負うというべきである。」としています。

2 契約成立後の宅建業者の説明義務

 宅建業者が,「売買,交換又は貸借の契約が成立するまでの間に」説明すべき重要事項については,宅地建物取引業法35条1項規定があります。それとは別に,宅地建物取引業法47条1号ニに,「宅地若しくは建物の売買,交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し,又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため」,「宅地若しくは建物の所在,規模,形質,現在若しくは将来の利用の制限,環境,交通等の利便,代金,借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて,宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について,「故意に事実を告げず,又は不実のことを告げる行為をしてはならない。」と規定されています。したがって,契約成立前に,事故物件であることを知っていたときはもちろんのこと,契約成立後にその事実を知ったときも,締結してしまった売買契約につき,その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実ですから,仲介した宅建業者は,代金決済や引渡手続が完了してしまう前に,買主に説明する義務があるといえます。

3 損害額

 Yの説明義務違反が契約成立前あれば,土地の取得に要した支出額と土地の現在価額との差額(1150万329円)が,説明義務違反と相当因果関係がある損害になり得ますが,本件は,売買契約成立後に発生した説明義務違反ですから,土地の取得に要した支出額と土地の現在価額との差額は,説明義務違反と相当因果関係がある損害とはいえません。相当因果関係がある損害は,説明義務が履行されていれば代金決済や引渡手続を了しない状態で,売買契約の効力に関し,売主側と交渉等をすることが可能であったのに,代金決済や引渡手続を了してしまった状態で売主側との交渉等をせざるを得なかったことによる損害であり,具体的には,このような状態に置かれざるを得なかったことに対する慰謝料ですから,本件の判決では,YがXに賠償すべき損害額は150万円とされたのです。

 ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。

(明海大学不動産学部 有嶋咲)