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マイホームを買う前に読んで安心Q&A㉒

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

Q.多くの裁判例で,不動産の売買・賃貸を媒介する宅建業者は,自殺等の人の死に関する心理的瑕疵についても調査・説明義務を負うとされ,違反した場合には,公法上の処分を受けるだけでなく,買主・借主に損害賠償をしなければなりませんが,法令に心理的瑕疵の具体的判断基準が定められているわけではないので,過去の裁判例を参考にして判断するほかありません。ところが,裁判例では,他殺・自殺など人の死に関する事件・事故があった場合について,事件・事故の重大性,経過年数,買主・借主の使用目的,近隣住民に事件等の記憶が残っているかどうか等を総合的に考慮して,心理的瑕疵や説明義務の有無が判断されているため,個々の取引実務において的確な判断をすることが困難です。判断の参考になる一応の基準はないのでしょうか。

A.不動産取引実務の要望に応えて,国土交通省は,「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」(座長:中城康彦 明海大学不動産学部長)を開催し,過去の裁判例の蓄積の状況等も踏まえた検討を重ね,令和3年10月に,「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しています。このガイドラインでは,人の死に関する心理的瑕疵について,売買・賃貸の媒介をする宅建業者が行うべき調査・説明について,次のような具体的な基準が示されています。

<調査の対象・方法>

①宅地建物取引業者が媒介を行う場合,売主・貸主に対し,告知書等に過去に生じた事案についての記載を求めることにより,媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする。

②宅地建物取引業者は,原則として,自ら周辺住民に聞き込みを行う,インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行う義務は無く,仮に調査を行う場合であっても,亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し,特に慎重な対応が必要。

<調査に当たっての留意事項>

①宅地建物取引業者は,売主・貸主による告知書等への記載が適切に行われるよう必要に応じて助言するとともに ,売主・貸主に対し,事案の存在について故意に告知しなかった場合等には,民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましい。

②告知書等により,売主・貸主からの告知がない場合であっても,人の死に関する事案の存在を疑う事情があるときは,売主・貸主に確認する必要がある。

<告知の原則>

 宅地建物取引業者は,人の死に関する事案が,取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には,これを告げなければならない。

<告げなくてもよい場合>

①【賃貸借・売買取引】取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故,誤嚥など)。 ※事案発覚からの経過期間の定めなし。

②【賃貸借取引】取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死が発生し,事案発生(特殊清掃等が行われた場合は発覚)から概ね3年間が経過した後

③【賃貸借・売買取引】取引の対象不動産の隣接住戸・日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した①以外の死・特殊清掃等が行われた①の死  ※事案発覚からの経過期間の定めなし

  • ●告げなくてもよいとした②・③の場合でも,事件性,周知性,社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要がある。
  • ●告げなくてもよいとした①~③以外の場合は,取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は,告げる必要がある。
  • ●人の死の発覚から経過した期間や死因に関わらず,買主・借主から事案の有無について問われた場合や,社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある。
  • ●告げる場合は,事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期),場所,死因及び特殊清掃等が行われた場合はその旨を告げる。

<留意事項>

① 亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し,これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから,氏名,年齢,住所,家族構成や具体的な死の態様,発見状況等を告げる必要はない。

② 個々の不動産取引においては,買主・借主が納得して判断したうえで取引が行われることが重要であり,宅地建物取引業者においては,トラブルの未然防止の観点から,取引に当たって,買主・借主の意向を事前に十分把握し,人の死に関する事案の存在を重要視することを認識した場合には特に慎重に対応することが望ましい。

※人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引の取扱い,搬送先の病院で死亡した場合の取扱い,転落により死亡した場合における落下開始地点の取扱いなど,一般的に妥当と整理できるだけの裁判例等の蓄積がないものは,今後の事例の蓄積を踏まえて,適時にガイドラインへの更新を検討する。

 ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。

(明海大学不動産学部 有嶋咲)