マイホームを買う前に読んで安心Q&A㉕
住環境と都市計画の土地利用計画
みなさんは、マイホームを買うにあたって、どのようなことを考慮されるでしょうか。住宅のデザインや広さ、間取り、物件の価格など、さまざまなことを考慮されることになると思います。その考慮すべき事項の一つとして、「マイホームをどこにするか」という、立地条件・住環境があげられるでしょう。
今回のコラムでは、都市部での住環境の形成にとって重要な役割を果たしている都市計画の土地利用計画に関し、その概要に触れてみたいと思います。
(1)都市計画法
都市計画を適切に進めていくために、日本には「都市計画法」という法律が定められています。「都市計画法」をはじめとする法制度・行政的な仕組みと工学的な知見・技術とが一体となって、都市計画は進められることになります。
ところで、都市を構成する土地や建物について、日本は、私有財産制度のもと、憲法29条1項でも財産権が保障されていることから、基本的には、土地や建物は個人・法人等が所有し、各自が自由に使用したり、収益を上げたり、売却することができます。
他方、「都市計画法」は、良好な都市環境を形成し、人びとの「公共の福祉」の増進を図ることを目的としています。また、憲法29条2項では財産権は「公共の福祉に適合する」ように、その内容を法律で定めることになっています。この29条2項が示している法律の一つが「都市計画法」なのです。このことから、都市計画においては、各個人・法人の自由な行為・私的利益と共同的な生活環境の形成・公共の福祉とのバランス・調整が重要となってきます。
(2)都市計画区域
首都圏に住んでいると、日本は都市部のみのようにも見えてきますが、当然、そういうことはありません。山間部や森林地域などもあります。都市計画は、その名前の通り、都市部が中心となりますから、都市計画を実施する地理的範囲として、「都市計画区域」を定めることになります。なお、都市計画区域は、国土面積の約3割、人口の約9割以上を占めています。
都市計画区域は、都道府県が区域指定を行い、市町村境をまたいで設定できます。都市計画区域では、都市計画道路、公園、上下水道などのインフラ整備、土地区画整理事業などの市街地開発事業が計画的に進められるとともに、土地利用や建物に対する規制・制限が課されることになります。
(3)市街化区域と市街化調整区域
都市計画区域内は、原則として、さらに「市街化区域」と「市街化調整区域」とに区分されます。これを「区域区分(線引き)」といいます。
「市街化区域」とは、既に市街地を形成している区域と今後概ね10年以内に優先的・計画的に市街化を図っていく区域のことです。一方、「市街化調整区域」とは、市街化を抑制すべき区域のことです。市街化調整区域では、宅地開発などを制限し、スプロール的(虫食い的)な土地利用が発生しないようにしています。例えば、横浜市では、大規模宅地開発が行われた港北ニュータウンの南側や東側などを市街化調整区域とし、緑地・農地等の保全を図っています。
この区域区分は、一定期間ごとに、見直しが行われます。これまでは、基本的には、市街化調整区域を市街化区域に編入する(市街化区域を拡大する)という方向での見直しが行われてきました、しかし、近年では、まだ限られた事例ですが、土砂災害のリスク・被害を軽減するなどの理由から、従前の市街化区域を市街化調整区域に編入する(「逆線引き」)という見直しも出てきています。
都市部といえども、人口減少時代を迎えつつある日本では、都市を賢く「縮退化」「コンパクト化」していくことも必要だといわれています。土地所有者の資産価値低下の問題など、さまざまな課題があるものの、「逆線引き」は、今後の土地利用の一つの方向性を示すものかもしれません。
私たちがマイホームを購入する際にも、価格が相対的に安いなどの理由から、市街化調整区域内の物件の購入が選択肢に入ってくることもあるかもしれませんが、そもそもの市街化調整区域設定の趣旨、都市のコンパクト化傾向などを踏まえると、やはり慎重に検討される方がよいかもしれません。
(4)用途地域制
市街化区域内では、必ず、「用途地域」が定められることになっています。用途地域制は、土地や建物の使い方(用途)をゾーニング分けし、計画的な土地利用を実現しようとするものです。市街化区域内では、各地区特性に応じて、下図の12種類の用途地域が指定されます(必ずしも12種類すべてが指定されるわけではありません。また、田園住居地域を加えると用途地域は13種類となります。)例えば、新横浜駅の周辺は、新幹線の下り線ホーム側からの景色と上り線ホーム側からの景色とがかなり異なりますが、これは、下り線側が「第一種低層住居専用地域」に指定されているのに対し、上り線側は「商業地域」に指定されているからです。
用途地域制は、建物の使い方に関するものなので、都市計画法だけではなく、建築基準法にも関連します。みなさんがマイホームを建築主として建てようとする場合には、建築基準法に基づき、建築主事等に建築確認申請を行う必要があります。建築確認では、都市計画の用途地域と適合した建築計画となっているかなどのチェックを受けることになります。この建築確認を通じて、用途地域制の実現が図られているのです。
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
(明海大学不動産学部 兼重賢太郎)