マイホームを買う前に読んで安心Q&A㉖
「まちづくり」と条例
みなさんがマイホームを購入するにあたって、よりよい環境の地域に住みたいと考えた場合、マイホームとなる物件のある市町村が、どのような「まちづくり」を進めているのかも、気になるポイントであるかもしれません。
この「まちづくり」に関して、重要な役割を果たしているものの一つに、各市町村の自主的なルール(条例)があります。今回のコラムでは、このことについて、考えてみたいと思います。
(1)法律と条例
前回のコラムでは、都市部での住環境の形成にとって重要な役割を果たしている都市計画の土地利用計画に関し、その概要に触れました。都市計画は、都市計画法という「法律」に基づいて実施されますが、この「法律」自体は、原則、日本全体に適用されるルールです。
一方、法律に似たものとして、「条例」という言葉をどこかで聞いたことがあるという方も多いでしょう。条例とは、各地方自治体(都道府県や市区町村)を適用範囲とする、自主的に制定するルール(自主法)のことです。条例は、国の法令の範囲内で、各地方自治体の議会の議決を経て制定されます。地方自治体(法律上の用語は「地方公共団体」)の条例制定権は、下記の日本国憲法94条や地方自治法にその根拠があります。
【日本国憲法】 第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。 【地方自治法】 第十四条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。 2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。 |
神奈川県のホームページによると、神奈川県では現在約400の条例が施行されており、それに加えて、お住いの市町村の条例も施行されていることになります。条例は、法律とともに、地方自治において、重要な役割を果たしているのです。
(2)「まちづくり条例」
ところで、まちにはさまざまな人びと・主体が関わっており、「まちづくり」は、自治体の取り組みのみで完結されるものではありません。とはいえ、「まちづくり」への熱意のレベルは、自治体の取り組み姿勢が反映されることがあります。そのバロメーターの一つとなりうるのが、「まちづくり条例」(自治体によって名称は異なる)を制定しているかどうか、だと考えられます。
この「まちづくり条例」を全国に先駆けて制定したのが、神奈川県真鶴町です(1993年)。この真鶴町の「まちづくり条例」では、第10条に「美の原則」という条文を設け、これに基づき建築デザインコードとして「美の基準」を作成しています。現在、真鶴町は「美の町」ということをアピールしており、住民の方々の地域アイデンティティの形成にも、この「まちづくり条例」が寄与しているように思われます。
【真鶴町まちづくり条例】 (美の原則) 第10条 町は、まちづくり計画に基づいて、自然環境、生活環境及び歴史的文化的環境を守り、かつ発展させるために、次の各号に掲げる美の原則に配慮するものとし、その基準については規則で定める。 |
なお、下記のURLから、真鶴町が作成した「美の基準ムービー」がご覧いただけます。
全国的には、1990年代後半以降の「地方分権改革」(1999年の地方分権一括法の制定で結実)の流れの中で、各地で「まちづくり条例」が制定されてきており、現在約400の自治体で制定されています。法的には「まちづくり条例」の厳密な定義があるわけではありませんが、概ね、無秩序な開発の規制、土地利用の調整、生活環境・自然環境の保全、良好な景観の形成、住民参加や住民自治の仕組みづくりなど、多様な「まちづくり」に関わる内容を包摂した条例の総称だといえます。
(3)タワーマンションの規制
大都市を中心に、各地でタワーマンションを核とした再開発が展開されています。例えば、神奈川県内では、川崎市の武蔵小杉駅周辺において、工場跡地などの再開発により、首都圏でも有数のタワーマンション集中立地地区が出現しています。
一方で、同じ大都市でも、自治体によっては、条例により、事実上、タワーマンションの立地を規制するところもでてきています。そのような条例を制定しているのが、くしくも東西それぞれの代表的な港町として有名な横浜市と神戸市です。
横浜市は、2006年に「横浜市都心機能誘導地区建築条例」を制定し、横浜駅周辺などの「都心機能誘導地区」においては、住宅そのものの新築禁止や容積率の300%制限などにより、事実上、タワーマンションを規制しています(ただし、条件により容積率の緩和も認められる)。
神戸市も、2020年に「神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例」を改正し、三ノ宮駅周辺などの「都心機能誘導」地区において、横浜市と同様に、住宅そのものの新築禁止や容積率の400%制限などにより、事実上、タワーマンションを規制しています。特に、神戸市では、市の人口が減少局面に入っていることを前提とした持続可能な「まちづくり」が意識されているようです。
ここでは、タワーマンション規制の政策的是非については触れませんが、みなさんのライフスタイルや価値観などと照らし合わせて、あらためて、どのような「まちづくり」が自分にフィットするのか、考えてみてもよいかもしれません。自治体のホームページ等で条例やその概要が公開されていることもありますので、マイホームの立地選択の際に、参考にされてもよいのではないでしょうか。
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
(明海大学不動産学部 兼重賢太郎)