マイホームを買う前に読んで安心Q&A㉗
切っていいのか?隣家の枝木 ~相隣関係の話~
カナスム「マイホームを買う前に読んで安心Q&A」27回目の今回は、神奈川県出身の中村が担当させていただきます。本日は相隣関係(民法第209条~第238条)の解説です。皆さまがご自宅を建築された後は、近隣の方と良好な関係を築くというのも大切になりますよね。民法にも隣接する不動産の利用を調整する規定が設けられています。それが相隣関係の規定です
Q:隣家の枝木が我が家の敷地に伸びてきています。葉っぱがおちてきて邪魔だし、見た目もよくありません。家人は「枝木も勝手に切ってよいと法律改正された」というのですが、本当でしょうか?
A:竹木の枝木が越境している場合でも、その竹木の所有者に切除してもらうことが原則です。ただし一定の場合には、越境された土地の所有者が切除することも認められています。
【解説】
◆枝は所有者に切ってもらう。これが原則
「隣地の木の枝が越境している時は木の所有者に切ってもらう。一方、根が越境している時は自分で切ってしまってOK」。これはわりと有名ルールなので、聞いたことがあるかもしれません。民法第233条の第1項に規定があります(法律って意外と細かいことまで決めているんです)。
(竹木の枝の切除及び根の切取り) 第233条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。 |
「竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」ですから、自分で切ってはダメだということです(竹木の所有者に切ってもらう)。このルールが近年改正されました。民法第233条第3項です。
第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。 一. 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所 有者が相当の期間内に切除しないとき。 二. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができな いとき。 三. 急迫の事情があるとき。 |
この3つのどれかにあたるのであれば、越境してきた枝を自分で切ってもよい、ということです。まず一の「催告したにもかかわらず、…相当の期間内に切除しないとき」です。要は「邪魔だから切ってくれ」と言ったのになかなか切ってくれない場合ですね。とはいえ、切ってくれと言われたら、その場で切れ、というのは無理な話です。「相当の期間内」に切ってくれないのならば、自分で切ってもよい、ということです。
◆相当の期間とは
でも「相当の期間」って、どれくらいを言うのでしょう? どのくらい我慢すれば自分で切ることが認められると思いますか?
これは「個別の事情を踏まえて判断」される、ということになっています。要はケースバイケース。なぁんだ法律知っても結局は問題解決にはつながらないな、と思うかもしれませんね。でも竹木の位置や大きさや枝の越境状況、土地の利用状況、竹木自体の財産的価値など様々な事情がありますから、一概には線を引けないのです。
とはいえ、法律改正を審議した国会の議論の中では、「竹木の所有者に枝を切除するために必要な時間的な余裕、時間的な猶予を与えるという趣旨からすれば、基本的には二週間程度は要することになるのではないか」という説明が政府参考人からありました。(「第204回国会 参議院 法務委員会 第9号 令和3年4月20日」と検索すれば誰でも議事録を読むことができます)。
「相当の期間」を判断する材料のひとつになるかもしれません(2週間経過すれば勝手に切ってよい、ということではないですよ。あくまで基本的な考え方です。念のため)。
◆探しても隣地所有者が見つからないなら自分で切ってもよい
次に、二にあるように所有者が不明ならば、自分で枝を切ってしまってもかまわない、とされています。放っておくと枝が伸び続けてしまうから、これはありがたいルールですよね。とはいえあくまで「所有者が不明」「所有者がわかっても連絡が取れない」という場合の話です。所有者を探す努力をしなければダメです。
空き地や空き家など住んでいる人がすぐにはわからない場合などでは「所有者を探すのが面倒だな」と思うかもしれません。登記で所有者を調べるにもお金がかかりますし。調べたとしても登記に記載された土地の所有者が死亡している、住所が変わっている、ということもありえます。そのため根の場合と同様、自分で切れる、という案も検討されたようですが、それは採用されませんでした。探しても見つからない(連絡が取れない)場合には切っても構わない、ということです。
◆緊急事態も自分で切ってOK
三は差し迫った危険があるときです。竹木の所有者に切ってもらう時間的余裕がないのであれば、越境された側が枝を切ることも認められます。具体的には、「地震により破損した建物の修繕工事用の足場を組むために、隣地から越境した枝を切る」といった場合などが該当します。
◆費用は誰が負担するのか
自分で切ってよいといっても、高い木の枝などは専門業者に依頼しなければならない場合もあるでしょう。当然、タダではないですよね。この費用は誰が負担するのでしょうか?
当然、竹木の所有者だと思うかもしれません。枝や根の越境は、不法行為(他人の権利を侵害する行為)に該当しますので、損害賠償請求権が発生しますから、その考えも一理あります。
しかし、枝や根を切った場合の費用負担については、法律に明記されていません。費用負担は竹木の所有者だということを法律上も明確にしては、という議論もあったようですが、費用負担を明文化する案は採用されませんでした。事案ごとに協議や調整が必要ということです。
ということは、相手が費用を負担しないと言ってきた場合、裁判などを起こして相手が負担すべきことを明らかにしなければならない場合も出てくる、ということです。
このあたりの議論も国会の議事録を読むことができます。興味のある方は「第204回国会 衆議院 法務委員会 第6号 令和3年3月23日」で検索してみてください。
以上、相隣関係の中から「竹木の切除」について解説しました。
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
(明海大学不動産学部 中村 喜久夫)