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購入前に重視される情報と購入後の後悔(続編):「長期修繕計画」にご用心
Q:修繕積立金額の算定根拠は何でしょうか。
A:算定根拠の一つは、「長期修繕計画」です。
1.はじめに
2024年の6月に国土交通省は、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しています。このガイドラインの中で、「修繕積立金の額は、将来見込まれる修繕工事の内容、おおよその時期、概算の費用等を盛り込んだ『長期修繕計画』に基づいて設定されます。」と記述されています。このように、長期修繕計画に基づいて、修繕積立金額は算定されていることがわかります。
しかし、マンション購入者の過半数は、長期修繕計画を確認しているとは言い難い状況です(図-1参照)。
本稿では、マンションを対象として、購入者の長期修繕計画に対する現状認識について紹介します。

図-1 長期修繕計画の確認状況
2.現在の長期修繕計画の認知状況
マンションの購入に向けた情報取集開始時点から契約締結時点までの間を対象として、①情報収集時点、②内見時点、③契約締結時点の3時点において、それぞれ重視した要因を年齢別に捉えています(表-1参照)。立地6項目、建物11項目、管理6項目の計23項目から構成されます。なお、回答は、「重視した」「やや重視した」「あまり重視しなかった」「重視しなかった」の4段階尺度で捉えています。
「長期修繕計画の内容」については、情報収集時点(11.1%)から契約締結時点(15.6%)に向けて徐々に重視される傾向にあります。しかしながら、長期修繕計画は、修繕積立金の算定根拠とされながらも、「管理費・修繕積立金の額」に比べて重視度は低位です。
表-1 マンションの情報収集時点別にみた価格形成要因の重視項目の推移(「重視した」回答割合)

国土交通省住宅局「令和5年マンション総合調査」によれば、現在の長期修繕計画の認知状況として「知らない」との回答割合を年代別にみると、20歳代が42.9%と最も高い割合を示しています(図-2参照)。修繕積立金の算定根拠とされる長期修繕計画の認知度が低いことは、マンション購入後の後悔惹起要因となることが懸念されます。

図-2 現在の長期修繕計画の状況(「知らない」回答割合の年齢別比較)
3.マンション購入後の後悔を惹起させる要因
「長期修繕計画の内容」に対して後悔している購入者は7.2%を占めています(図-3参照)。長期修繕計画は、「管理費・修繕積立金の額」(9.6%)の算定根拠であることに鑑みれば、修繕積立金に付随して後悔を惹起させる要因として購入者に認識されていることが見て取れます。

図-3 マンション購入後の「後悔している」価格形成要因の回答割合
4.マンション購入者の長期修繕計画の内容に対する後悔認識
年齢20代の購入者の4人に一人(25.7%)は、「長期修繕計画の内容」に対して後悔しています(図-4参照)。
前記のとおり、契約締結時において当該計画を重視した回答割合は15.6%にとどまっています(前記表-1参照)。マンションの購入後の後悔を避けるためにも、購入前に長期修繕計画の内容をしっかり確認された方が賢明です。

図-4 長期修繕計画の内容に対して「後悔している」回答割合の年齢別比較
特に年齢20代の購入者の方に長期修繕計画の内容に後悔がみられます。前述のとおり、長期修繕計画は、修繕積立金の算定根拠となります。売買契約時にしっかり確認しなかったことの結果として、「管理費・修繕積立金の増額は想定外である」と認識される方は6割(そう思う:20.0%、ややそう思う:45.7%)を超えています(図-5参照)。また、当該支払いに負担に感じている方も過半数(そう思う:11.4%、ややそう思う:51.4%)を超えている状況です(同調査)。

図-5 購入者20歳代の「管理費・修繕積立金の増額は想定外である」に対する回答
それでは、なぜ購入の際に、長期修繕計画の内容に対して注視する意識が及ばないのでしょうか。その理由の一つは、将来の住み替えを意識した資産売却益への期待があげられます。
20歳代の購入者の85.7%(そう思う:22.9%、ややそう思う:62.9%)は、将来のキャピタルゲインを期待してマンションを購入しています(図-6参照)。
このように永住ではなく、いわば仮住まい的な思考が、日常に係るコストに対する意識を希薄化させているのかもしれません。

図-6 購入者の年齢別にみた「将来の売却益(キャピタルゲイン)を期待してマンションを購入した」回答割合
5.おわりに
長期修繕計画は、修繕積立金の算定根拠となります。しかしながら、マンション購入時に、確認されない方は約4割もおられます(図-1参照)。特に、20歳代の購入者は、長期修繕計画を知らない方が4割を超えている状況です(図-2)。こうした状況を鑑みれば、宅地建物取引業法第35条の重要事項説明として、長期修繕計画の内容の説明を重視すべきです。
一方、長期修繕計画それ自体にも問題があります。現行の長期修繕計画では、物価上昇率=0として作成されています。5年程度ごとに見直しされることが前提とされています。インフレ率2%を超える経済下において、本来であれば、しっかり物価上昇率を見込むべきです。中期での見直しが前提とされる長期修繕計画に対する認識(どうせ変更となる)は、住宅ローンに係わる金融機関、宅地建物取引業者等の注視力を希薄化させているように思えます。インフレを考慮した長期修繕計画の内容を、修繕積立金の金額とともに事前に購入者に対して説明すべきではないでしょうか。
長期修繕計画の内容は、修繕積立金と付随して、マンション購入後に後悔をもたらす原因の一つです。特に、20代の購入者の当該内容に対する理解を促すことが求められます。購入者自身も長期修繕計画の内容について興味関心を高めましょう。マンションの購入後に後悔しないためのワンポイントアドバイスです。長期修繕計画にはご用心ください。
【関連する研究論文の紹介】
小松広明(2025)「マンションの建築経過年数を考慮した維持管理サービス評価に係る入居者の意識構造」
日本建築学会計画系論文集,第90巻,第830号, pp. 787-796,2025年4月
https://doi.org/10.3130/aija.90.787
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明海大学不動産学部教授 小松 広明