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周辺施設からの騒音
音の感じ方は人それぞれで、近隣の居住者との騒音関連のトラブルは常に上位に入ります。
今回は、運送業務を行う会社の営業所からの騒音等によって周辺住民が健康被害を受けたとして、住民が会社を訴えた裁判例を紹介します(岐阜地方裁判所令和4年1月28日民事第1部判決LEX/DB 25591725)。
事実の概要
訴えられたのは食品の運送業務を行う会社で、平成14年6月頃から当該営業所の営業を開始しました。訴えたのはいずれも営業所の北側隣接地の住民7名です。仮にA,B,C,D,E,F,Gとしましょう。
AとBは夫婦で昭和52年から同地に居住しており、Cはその長男で、成人後もAB宅に居住していましたが、平成26年にAB宅の東側隣接地に妻であるDと共に居住を開始しました。
EとFは平成18年からCD宅の東側隣接地で居住を開始し、Gは平成30年からEF宅の東側隣接地で居住を始めました。
仮処分の内容
令和元年には運送事業から生じる騒音等によって健康被害を受けたとして、夜間営業禁止と営業時間中の一定の音量を超える騒音の禁止を求める仮処分を裁判所に訴えました。裁判所は令和2年2月14日に、午後11時から翌日の午前6時までの間、住民らの居住地内に、営業によって生じる騒音を50db(デシベル)を超えて到達させてはならないことを命じる仮処分決定を出しました。
50dbというのは静かな事務所や家庭用クーラーの室外機の音の大きさくらいに喩えられることが多いです。
また仮処分というのは、権利関係についてのトラブルが生じていて、裁判の結果を待っていては権利侵害が続く可能性がある場合に、仮に権利侵害行為等をやめさせる(差し止める)ことだと思ってください。あくまで仮の処分なので、住民らは令和2年2月25日に本訴訟を提起しました。
健康被害と賠償金の請求
住民らが訴えた健康被害は、近隣の運送業者の騒音によるうつ病、軽度うつ状態、アレルギー性鼻炎、近隣トラックの騒音による不眠症、適応障害で、薬が処方されています。住民らは治療費の他、慰謝料として1人あたり200万円から500万円と弁護士費用、加えてAについては騒音測定のための費用49万5,000円の損害賠償を請求しました。なお、営業所は令和2年9月に移転しています。
判決の概要
裁判所の結論は次のとおりです。まず住民らの健康被害と営業所の騒音との因果関係を認めませんでしたが、営業所から昼夜にわたり発生していた騒音が、住民らの生活の平穏に悪影響を与えうる程度に至っており、不法行為が成立するとしました。つまり騒音による健康被害は認めないけれども、騒音による精神的苦痛を受けたことは認めたのです。
一方で、営業所の営業開始後に、営業所隣接地に居住を始めたC,D,E,F,Gについて、「危険への接近」にあたるかどうかを判断しています。危険への接近というのは、「自ら危険に接近した者が、危険の存在を認識しながらあえてそれによる被害を容認しており、かつ、その被害が騒音による精神的な苦痛ないし生活妨害のごときもので直接生命・身体に関わるものでない場合においては、加害者の免責が認められ得る」という、最高裁判所の判決によるものです(最高裁判所昭和51年(オ)第395号昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁)。
この点に関しては、「騒音による被害は継続的に騒音に曝露(ばくろ。晒されるということ)することによって初めて現実化する」とし、営業所の「騒音問題が上記5名の居住開始前に広く知られていたなどの事情も見受けられない」ので、住民らが営業所の事業内容を知り、「夜間にトラックの出入りがあることを認識していたとしても、そこから直ちに原告ら(住民ら)が被告の騒音による被害の存在を認識し、これを容認していたとまでは認められ」ないとしました。つまり営業所からの騒音等で健康被害が生じる可能性があることを認めた上で居住を開始したとは認めなかったので、C,D,E,F,Gに対して会社が免責されるわけではないとしたのです。
では賠償額はいくらになったのでしょうか?Aが66万円、BCがそれぞれ55万円、Dには33万円、EFに22万円、Gは6万円です。
Aに対する賠償の内訳は、慰謝料50万円、騒音測定費は、因果関係はあるものの、すでに検査センターと弁護士による騒音測定が行われていたことから、49万円のうち10万円だけが認められ、弁護士費用は6万円、計66万円です。
まとめ
判決文中にもあるように、騒音による被害は継続的に騒音に晒されて初めてわかるものです。そして騒音の感じ方は人それぞれです。環境基準などによる基準に適合していても、うるさいと感じる人はたくさんいます。健康被害が生じてからでは手遅れになる場合もあります。周辺環境、特に音に関しては、十分調査を行うことが大切ですし、住居の防音性能を高める措置を講じておくことも快適な生活につながる重要な要素と言えるでしょう。
ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。
明海大学不動産学部教授 浜島 裕美







