マイホームを買う前に読んで安心Q&A㊶

1.交通利便性と不動産市場①-東京湾アクアラインと木更津市の不動産市場の変化-

①東京湾アクアラインと木更津市の関係

 東京湾アクアラインは、神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ海底トンネルである。週末になると多くの観光客が、買い物や観光を目的としてアクアラインを利用している。海底トンネルが完成した当初は、その通行料金が高額(片道4000円)であったため、利用者が限られていた。しかし、近年はその通行料金が大幅に値下げされ(片道800円程度)、利用者が急増している。

 東京湾アクアラインは木更津市と東京都心部までの往来を容易にしたことで、房総半島への観光客の増加だけではなく、都心のベッドタウンとしての役割を担うようになっている。また、必ずしも職場が東京都心でなくとも、その交通利便性を享受できることが、居住地を決めるうえで重要な要因となっている。

従来の木更津市の不動産市場の構造

 木更津市は、東京湾に面した港を持ち、JR木更津駅を中心として街が形成されてきた。かつて、駅前のビルにはデパートが入居しており、駅前から伸びる商店街とその周辺には多くの飲食店や商店が集積し、さらには駅を始発とする路線バスが市内各所を結んでいた。現在のように自家用車が一般的ではない時代において、電車や路線バスといった公共交通は市民生活の重要な足であり、それに付随する形で住宅地が形成されていった。こうした街の構造は、駅に近いほど生活が便利になるため、駅に近いほど住宅価格が高くなり、駅から離れるほど住宅価格が低下することになる。

 こうした現象は、多くの地方都市で一般的にみられる街の構造であり、中心市街地への移動費用、および中心駅から都市部などへの移動費用が住宅価格を決定づける需要な要因となっている。経済学の理論モデルでは、人間の合理的な行動の結果として、こうした都市構造が成立することを説明している。

 では、東京湾アクアラインの開通は、木更津市にどのような変化をもたらしたのだろうか。

交通手段の多様化と移動費用の低下

 従来の移動手段は、電車や路線バスであったが、時代の経過とともに、多くの市民は自家用車を利用するようになった。当然、電車や路線バスといった公共交通機関の重要性は相対的に低下することになる。その結果、住宅が立地するエリアは徐々にその地域の郊外部へと広がっていくことになるが、街としての機能はそれまでに形成されてきた構造を前提とするため、従来の中心市街地、すなわち駅を中心とした街の構造に依存することになる。

 こうした変化もよく観察される現象だが、木更津市ではそこに東京湾アクアラインという東京の中心部への移動を容易にする海底トンネルが開通した。上述の通り、移動費用の大幅な低下が生じたわけだが、この変化は木更津市の不動産市場に大きな変化を与えることになった。

街・不動産市場の構造変化

 木更津市の街は、南北に走るJR線の木更津駅を中心として、駅東側に扇状に広がっている。東京湾アクアラインは、中心となっている木更津駅から5㎞ほど北に位置する場所に、高速道路と接続する形で敷設された。

 この大規模なインフラ整備は、東京へのアクセスが飛躍的に改善することになるため、新しい店舗や工場が新規に開業し、人口増加とともに経済の活性化が進むことが期待された。実際に、通行料金が片道800円大幅に値下げされてからは、こうした傾向が加速している。

 こうした変化は、期待されたものであり喜ばしいことである。ただし、この変化は不動産市場の構造変化を生じさせることになる。従来の木更津市は駅を中心とした構造であったが、アクアラインの開通により生じた移動費用低下という利益を享受するためには、当然アクアラインに近い場所であることが望ましい。結果的に、従来の駅を中心とした街の構造とは異なる形で、民間主導の開発が進んでいくことになる。具体的には、高速道路に接続しやすく、開発が進んでおらず、不動産価格が低い場所が、開発されていく。

どの様な街づくりが望ましいのか?

 これらの変化は、駅を中心として形成されてきた従来の街の構造とは全く異なる形で街が開発されていくことを意味する。それまでは農地や山林だった場所に宅地が開発され、大型スーパーなどの商業施設が新規出店する。民間で供給されるサービスは民間資本で解決されるが、学校や行政施設などの公共財は税金を利用しなければならない。しかし、多くの地方自治体は、財源不足に直面しており、従来の住民向けの公共サービスの提供も同時に行わなければならない。行政は、限られた予算の中で、市民全体に最適なサービスを供給しつつ、地域の未来にとって有益な街づくりをしていくことが求められることになる。つまり、従来の街の構造を延長するだけでは、アクアライン敷設によるメリットを最大化することは出来ない。他方で、アクアライン開通によるメリットを最大化し要とした場合、必ずしも既存住民の利益にはならないのである。

 この問題を考える際、話が難しくなってしまうのは、アクアライン開通によるメリットを最大化するための様々な政策や条例の効果が表れるのは、不確実な未来の話であり、想定通りの変化が生じるかどうかわからない点である。そして、未来の話は、現在の住民にとっては必ずしも自分自身の利益につながらないため、行政によるそのような対応に対して合意形成が得られにくいことである。政治は現在の住民の声を代表するため、将来的な地域の未来像を踏まえた計画であっても、それが多くの人に評価されるとは限らない。このため、地域の未来を見越した合理的な計画であっても、それを実行できるかどうかは、別の話となってしまうのである。

 ご不明な点がございましたら、明海大学不動産学部までご確認ください。

明海大学不動産学部准教授 原野 啓